桜の雨

やっぱり先生の教え方は上手だった。
先生と話するなんて無理!なんて思っていたけど、話をすると案外話せてしまうものだ。
私の緊張は次第にほぐれていった。

勉強が一通り終わると、先生の顔つきが神妙になった。
「あの、謝りたいというか、話しておきたいことがあって」

なんだろう。
話したいことって……告白?!と一瞬思ってしまったが、そんなことは100%ない。謝りたいこと…?

「少し前に桜木がスマホの電源切り忘れてたことあったじゃん?」

ふと、あの日のことを思い出してしまった。
顔が赤くなりそう。

「その日にさ…桜木が忘れてたらそのままでいいんだけど、俺、桜木の頭ぽんぽんしたような気がするんだよね」

私の大切な思い出を先生がサラッと言うものだから、思わず「ぇあっ」と変な声が出てしまった。
先生は困った顔をしながら話を続ける。

「嫌な思いさせてたらごめん。女子生徒の頭ぽんぽんするなんて軽率だった。セクハラと言われても返す言葉がないくらいだ」
先生は私に向かって頭を下げている。

顔が熱い。

「こんなこと言うと言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、あの時、桜木が泣きそうな顔して、あたふたしてたから俺悪いことしちゃったかなと思って、慰めたくなっちゃったんだ。でもこういうの冷静に考えたらキモいよな…」
先生はしょんぼりした顔で「はは…」と笑っている。

「そんなことないです!嬉しかったです!!」
自分でも変なことを言っていることを自覚している。
でも言わないと気持ちは伝わらない。

私の言った意味がよく分からないのか、先生が不思議な顔をしているので、
「先生が慰めてくれて嬉しかったです」
と言葉を付け加えておいた。


本当は先生に頭ぽんぽんされたこと自体が嬉しかったんだけど。
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