桜の雨
「お姫様抱っこ?!」
保健室にいることも忘れて思わず大声を出してしまった。
「そうだよ!みんな大騒ぎだったんだから〜」
そんなことになっていたなんて…知らなかった。
覚えていない自分が恨めしい。
じゃあ、あの匂いは先生の匂い…って、そんなこと考えるのは変態みたいだ。
とにかく先生にお礼をしないと。
そう思い、ベットから出ようとすると、保健室のドアから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「失礼します。桜木、大丈夫?」
ベットの周りにカーテンがかかっているからか、カーテン越しに先生の遠慮がちな声が聞こえる。
桃は、すかさず
「芽玖、起きましたよー!それじゃあお二人でごゆっくり〜」
とカーテンをササッと開けて出て行ってしまった。
修学旅行の遊園地のときといい、桃は動きが素早い。
いつの間にか保健室の先生はいなくなっていたようで、先生と二人きりになってしまった。
少し気まずい。
寝起きの顔を先生に見せるのは恥ずかしい気がして、前髪を直すふりをして目を隠す。
「桜木、走り始めのときから少し顔色が悪かったから気になってたんだ。あのとき声かけてればよかったよね…ごめん」
先生が私のことを見てくれていたことに嬉しくなりながらも、しょんぼりしている先生を見ると申し訳ない気持ちになる。