桜の雨

さっきの騒々しさなんて想像できないほど、教室は静かになっていた。
先生と二人きり。
ずっと待ちわびていた瞬間なのに、いざとなると怯んでしまう。

先生に数学を教えてもらいながら、いつもの調子で雑談をする。

「今日はバレンタインなんですよね…お店がバレンタイン一色でした」
何気なくバレンタインの話題を出す。
心なしか声が震える。

「もうそんな時期か」
先生は遠い目をしている。

「今って色んなチョコ売ってるんですよ。リアルな動物の形したチョコとか、リップみたいなチョコとか」

「最近のチョコは面白いんだね。桜木も自分にチョコ買ったりするの?」

先生はいつも通りの楽しそうな笑顔。
ここは思い切って、切り出すタイミングなのかもしれない。

「自分じゃなくて…実は先生に買いました」

先生は「えっ」と驚いた顔をして私を見る。

「先生には、いつも勉強教えてもらってお世話になってるから、どうしても渡したくて…もしかしたら迷惑かもしれないんですけど、受け取ってほしいんです」

ドキドキして心臓の音がうるさい。
受け取ってもらえなかったら、どうしよう。
かなりショックだ。
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