トランス・ブルー・ラブ  リアランとチェイサー
リアランはパンケーキを平らげ、ナプキンで口をふいた。
「おいしかった。ごちそうさま」

可愛らしいお方だ。

「夜中の酒はよくないです。
リアラン様」

「眠れない夜もあるのだ」

そう言うと、
リアランはうつむいて、配膳台に額をぶつけるように体を傾けた。

王位継承者として、国王の期待に応えるためには、
大きなプレッシャーと闘わねばならないのだろう。
そして緊張の連続。

チェイサーは真顔で言った。

「俺でよければ、いつでもパンケーキをつくりますよ」

リアランは顔をあげて、
<これは社交辞令で、期待はしていない>と思っているのか

「あなたが心配することではない。さて、寝るか」

チェイサーは、何か言いたかったが、出たのは

「ちゃんと歯を磨いてください」

「子ども扱いするなっ!」
リアランは振り向いて、
口をとがらせた時、その体がゆらりと揺れた。

チェイサーは、素早くリアランの腕をつかんだ。

「大丈夫ですか?結構、酔っていますね?
部屋までお送りします」

「いや、大丈夫だ。
酒の事は、ブラントンに言っても無駄だぞ。
いろいろな所に、隠してあるからな」
リアランは、チェイサーの腕を
すり抜けて廊下に出た。

そのまま、ゆっくりと
手すりに寄りかかるように、階段を登り、暗闇に溶けるように消えていった。

腕も肩も華奢で・・・・
亡き母親ゆずりの、美しい王位第一継承者。
家族も頼れる友人もいない、
その人は、深い孤独を抱えている。

チェイサーは、残ったブランデーをグラスに注いで、一気飲みしてから、皿を片づけ始めた。
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