トランス・ブルー・ラブ  リアランとチェイサー

失踪事件

その後、チェイサーはリアランと
顔を合わせることはなかった。

離宮の外回りの警備をして欲しいと、ブラントンから指示が下ったからだ。

1週間後には、満期契約終了になる。
リアラン様は、これからどうなるのだろうか。

2階の寝室の明かりを見て、想いはかすめるが、
自分の立場では何もできないことを、チェイサーはよく理解していた。

朝方、夜勤を終えて、
離宮の庭で、テントの片づけをしている時だった。

「リアラン様!リアラン様は、
お庭にいらっしゃいますか?!」

テラスの折り戸を、勢いよく開けて、老執事が、大声でチェイサーに問いかけた。

「どうかしたのですか?」

老執事は一瞬、口ごもったが

「その、リアラン様が、いらっしゃらないのです。
寝室からお出になられないので・・その・・
お声をかけたのですが、返事がないので」

突然の行方不明、否、家出か?
ブラントンの心配が、頭によぎった。

「昨日も、体調が悪いとおっしゃって、顔色がよくなかったので、
心配です」

チェイサーは即答した。

「わかりました。ダリルにやらせましょう」

老執事と一緒に、ダリルを連れて2階の寝室にむかった。

部屋は思ったより小さく、
天蓋付きのレースのカーテンで囲まれたベッド、
窓側には、マホガニーの意匠をこらした鏡台やチェストがあり、
ガラスの花びんには、満開の薔薇が生けてあった。

鏡台には、ヘアブラシや美しい
ガラス瓶の香水、化粧品の数々、
レースの扇が置かれている。
女主人の部屋だ。

「リアラン様は、母君のお部屋を、そのままお使いになっているので・・」

老執事は、あわてて言い訳のように言った。

チェイサーはベッドの布団をめくり上げ、シーツに手を置いた。
まだ、微かにぬくもりが感じられる。
それほどの時間は立っていない。
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