トランス・ブルー・ラブ  リアランとチェイサー
修道院の中庭、中央に井戸があるため、
数人の修道女が、大きなたらいで洗濯をしていた。

炊き出しの準備か、井戸端で野菜を洗い、大きなかごにいれている修道女もいる。

修道院は中庭を中心に、四方が建物になっている。
日陰でお腹の大きい女たちが、
座って笑い合っているのも見えた。

そこで映像が切れた。

チェイサーは、ぎゅっと目をつぶり、額に手をやった。
ホークアイが、獲物を見つけ、意識がそれたようだ。

とにかく、リアランはここにいるのは確実だが、
出入り口は、他にもあるのだろうか。

ダリルを待機させて、
チェイサーは、壁沿いに修道院を一周回った。

出入り口は正門と、裏門の二か所だけだった。

大きな馬車が、裏門で止まった。
明らかに富裕階級のものだ。
御者が飛び降りると、
すぐに馬車の戸を開けて、足台も置いた。

「奥様、お気をつけください」

身をかがめて姿を表したのは、
お腹の目立つ貴族の奥方だった。

小さな木戸が開き、
年配の修道女が数人、出迎えに出て来た。

奥方はお腹をかばいながら、
身をかがめて、修道女に付き添われて、木戸の中に入っていった。

チェイサーは御者に、たばこの箱をすすめると共に、声をかけた。

「ここは貴族の奥方も使うのか?」

御者は、たばこの箱から一本抜いて、
「ああ、お産の腕が、この国ではここが一番うまいからな。

正面玄関は、貧乏な奴らが使うけど、裏は奥様のようなお方が、専用で使うのさ。
裏と表、出入り口と建物は分けられている」

御者はたばこに火をつけると、
ふっと笑い

「極秘だが、結婚前なのに
妊娠しちまった御令嬢も、ここを使うのさ」

「さて、オイラは一度、屋敷に戻らなくてはならない。
たばこ、ありがとよ」

御者はそう言うと、御者台に乗り込んだ。
< 61 / 73 >

この作品をシェア

pagetop