君の全部になりたい【完】
黙ったまま近づいてくるその目が、私のことを壁際へと追いやる。
どんっと壁に振動が伝わって、物音が立つ。
「っ、」
あっという間に、顔の横に両手を置かれてしまってアールグレイの香りに閉じ込められる。
まだドレスルームには私の振袖を片付けてくれてるメイドたちがいるのに、こんなところ見られたらっ。
そう頭では思うのに、体が硬直して動けない。
「俺以外といて楽しかった?」
どろどろした感情を露わにした爽は、今にも沈みそうな瞳でそう問いかけてくる。
試してるような言葉に、喉が詰まる。
「男友達なんて、俺以外に必要?」
タイムオーバーだったみたいで次の質問が投げかけられる。
取られたくない、とでもいうような表情。
勝手に留学して、離れていったのは爽のくせに。