君の全部になりたい【完】
「お、怒ってないの?」
「怒ってるよ。」
でも優しい声のまま。
しょーがないな、って笑う。
「ごめんなさいっ…」
そう素直に謝れば、何度目かの腕の中へ引き寄せられる。
安心して、ぽろぽろと瞳から雫が落ちる。
「もっと可愛いって自覚を待てよ。」
ぽつり耳元でつぶやかれたそれは、聞こえないふりをした。
こんな甘さ、溺れてしまう。
でも、もっとって求めてしまう。
しばらく私のことを抱きしめて、私の涙が止まった頃、そろそろ帰るか、と離れようとする爽。
「待って、」
思わず、引き止めてしまった。
「……?」
「もっと抱きしめてっ、」
目を見開く爽。
離れたくないの。
もっと、ずっと、強く、抱きしめてほしい。
欲張りになる、自分にびっくりする。
「…お願いだから、煽らないで。」
そう言って、困った顔をする爽。
一見私の言葉を否定したようなことを言ったくせに、その言葉とは裏腹、もう一度抱きしめてくれる爽に笑みが溢れる。
「爽の匂い大好き…」
胸が苦しくなるのに、満たされていく感覚。
私、爽のことが好き。
どうしようもない、その事実に気づいてしまった。