君の全部になりたい【完】
コンコンコン、といつもの三回ノックに返事をすると、爽が今日最後の挨拶に来る。
「美桜様、では私はこれで失礼致します。」
「…爽、待って」
私がそう言うと、ドアを閉める手を止めて不思議そうにこちらを見つめる。
今まで帰り際に呼び止めたことなんてないもんね。
「爽は小夜さんと付き合ってたの?」
その言葉に驚いた表情を見せて、
「…美桜様に関係ありますか?」
そうやって、大胆不敵に笑うの。
「…意地悪」
見下して、反応を楽しんでいる爽に、精一杯睨むけど全く効いてない様子。
さっき私が言ったことの仕返しなんだろう。
「小夜と付き合ってたら、美桜に何か不都合でもあんの?」
執事スイッチオフ。
そうやってまた面白がって、手のひらで転がすんだ。
「…べ、別にそういうわけじゃないけど、」
ゆっくり近づいてくる爽に、しどろもどろになってしまうのが悔しい。