人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

「陛下! 一体どこへいらしたのですか! 私たちがどれほどお探ししたか……もしも御身に何かございましたら、私は自ら処刑台へ首をさらすことになりますぞ」

 ヴァルクは「大袈裟」と呆れ顔で言い放つ。

「もう子どもじゃないんだ。暗殺者のひとりやふたり、この手で叩き伏せてやる」
「そういう問題ではないのです!」

 侍従のテリーは普段から鬱憤が溜まっているのか、この際とばかりにヴァルクに愚痴をこぼした。
 ヴァルクは怒ることもなく、穏やかに返す。

「悪かったよ。だが、お前たちがいると話どころか、茶も出してもらえなかっただろうからな」
「は? 一体何のことでございますか?」
「教会と和睦を結ぶことにした」
「ええっ!? そ、それは一体……」
「イレーナの力だ。感謝しろよ」

 テリーと騎士たちが一斉にイレーナの顔を見る。
 イレーナは慌てて事の顛末を説明した。

「ほう、変わった妃さまだとは思っておりましたが、想像の斜め上を行きますな」
「そうだろう。だが、俺はわかっていてイレーナを同行させたのだ」
「なるほど、そうでございましたか」

 ヴァルクとテリーの会話を背後で聞きながら、イレーナは別のことに気を取られていた。
 テリーが現れなければ、うっかり手を握るところだった。
 自分の立場を忘れるところだったのだ。

(正妻じゃないんだから)

 ふたたび自覚すると、胸の奥がぎゅっと痛んだ。



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