人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
10、甘い夜は嵐の前の予兆でした
皇城へ戻ってからというもの、周囲のイレーナへの視線が様変わりした。
これまでは人質妃とかお飾りだとか散々な言われ方をしていたが、今回は皇帝とふたりで視察へ行ったのだ。
立派な妃として周囲が認め始めた。
しかも、イレーナは教会の村を再建するための計画の責任者として、わざわざ会議で任命された。
一部の貴族たちから不穏な声があったが、おおむね全員賛成だった。
アンジェの立場を考えるとイレーナは複雑な気持ちだったが、彼女も笑顔で賛成してくれたのでほっとした。
イレーナは忙しかった。
調べることが多くあって図書館に入り浸る日もあったし、会議に出席したり、何度か村へ足を運んだりと休む間もなかった。
ヴァルクも政務が多く、すれ違いが続いた。
「最近、陛下がいらっしゃいませんね」
ある日、図書館で調べものをしていたら、ふとリアが不満げな声をもらした。
イレーナは本に目をやりながら「そうね」と軽く返事をする。
気になってはいるが、わざわざ愚痴るほどのことではないので、平静を保つしかなかった。