人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
リアは眉をひそめてイレーナを問いただす。
「それでよろしいのですか?」
「何が?」
「だって、もう10日以上もいらしていないんですよ?」
リアの指摘にイレーナは特に反応しない。
だが、最後にヴァルクと会ったときのことが遠い日のように思えたのは確かだ。
「お互いに忙しくてそれどころじゃないのよ」
「でも、寝るときくらい一緒でもいいではありませんか」
イレーナは読んでいた本を閉じて積み上がった本の上に置く。
「あのね、私は側妃なの。毎晩陛下が私の部屋にいたら周囲はおかしいと思うでしょう?」
「でも、以前はほぼ毎晩いらしていましたよ」
「あのときは嫁いだばかりでめずらしかったのよ」
冷静にそう答えるものの、イレーナ自身も少し気になるところではあった。
(もしかして、私に飽きてしまわれたのかしら?)
そんな思いを抱えていたが、口にはしない。
たとえ親しい侍女であっても、妃がそのような愚痴をこぼすことなどできない。
イレーナは不安な心を払拭するように、与えられた仕事に励んでいた。