人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「イレーナさま、そろそろ戻りましょう。夕食の時間になります」
「ああ、もう夜なの? 早いわね」
最近は時間が過ぎ去るのが早い。
やることが多くあると、毎日が充実してそれはそれでいいのだが、やはり少し寂しさがよぎる。
(次はいつお会いできるのかしら?)
そんなことを思いながら図書館を出ようとしたところだった。
ばったりと出会ったのは、騎士団長。
(アンジェさまの不倫相手!)
とっさにそう思ったが、それよりも、彼の冷たく険しい表情にイレーナは硬直した。
鋭い視線でこちらを睨みつけてくる。
「し、失礼いたしました」
イレーナがぺこりとお辞儀をして立ち去ろうとすると、騎士団長は無言で睨んだままだった。
(こ、こわっ……! あの人、私があの日に目撃したことを知っているんだわ)
しかし、アンジェとは腹を割って話をしたから、そのことについては咎められることはないはずだ。
「失礼ですよね? あの人、イレーナさまに挨拶もしないで」
リアが不服そうに愚痴をこぼす。
けれど、イレーナにはそのことを責め立てる勇気はない。