人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「なぜチョコレートを思いついた?」
「以前、私の国で菓子職人がチョコレートを溶かして薔薇の花の形を作ったことがあるのです。それを応用すれば他のものもできるのではないかと」
「なるほど」
「あとは、ナグス王国との差別化も図れます。ナグス王国は年中通して暑い季節が多いので、チョコレート菓子はあまり好まれません。すぐに溶けてしまうので商売にならないのです。ですが、我が国の気候はやや温暖でどちらかといえば寒い時期が多いです。ですから……」
「わかった。十分だ」
ヴァルクは満足げに笑い、イレーナを抱き寄せる。
ごつごつした大きな手が肩を抱く感覚はまるですっぽりと包み込まれているようだ。
(ひ、久しぶりすぎてドキドキするわ!)
イレーナは硬直したまま黙り込む。
そのまま抱きしめられてキスでもされるのかと思いきや、ヴァルクはイレーナの肩を抱いたまま冷静に話を続けた。
「ひとりで出かけてもつまらないな。何を見ても、何か足りない気がしてならない」
「それは、どういうことでしょうか? 護衛の方々がたくさんいらっしゃるのでは?」
「そういうことじゃないんだよ」
ヴァルクは眉根を寄せてイレーナを見下ろす。
イレーナが緊張ぎみに視線を合わせると、彼は静かに語った。
「お前がいなければ何を見てもつまらない」