人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
イレーナは一瞬、思考が固まった。
ヴァルクがそれ以上言わないので、困惑しながらその意味を考えてみる。
そして思いついた。
(なるほど。陛下の言葉足らずを補ってくれる誰かが必要なのね!)
イレーナは笑顔で答える。
「わかりました。次に視察があるときは同行させてください。お役に立てるよう努めます」
ヴァルクはものすごく不機嫌な顔をした。
(え、えっ……なぜ? そういうことじゃないの?)
戸惑うイレーナをじっと見つめるヴァルクの表情は少々イラついている。
その気配を察したイレーナは笑顔のまま固まる。
ヴァルクはため息をついて少し遠くへ目線をやる。
「町で美味そうなものを見つけて食っても、たいして美味く感じられない」
「は? はぁ……それは残念でございましたね」
ヴァルクは目を閉じてさらに険しい顔つきになった。
イレーナは理由がわからず混乱する。
(今日はご機嫌が悪いのかしら? きっとお疲れなのね。早めに休んでいただきましょう)
イレーナは満面の笑みを向けてヴァルクに声をかける。
「ご多忙でさぞやお疲れのことでしょう。今夜はゆっくりお休みくださいませ」
すると、ヴァルクは不機嫌な表情になり、ついにイレーナを睨みつけた。
(ええーっ!? どうすればいいのよ!!)