人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

「あ、あのう……陛……ヴァルクさま、一体どうされたのですか? 私が何か気に障ることでも言いましたか?」
「別に」

 目も合わせずにそっけなく返すヴァルクにイレーナは眉をひそめた。

(何なの? まるで気に入らないことがあって不貞腐れる子どもみたい!)

 しばらくよそを向いたままのヴァルクを、イレーナはじっと見つめて根気よく待つ。
 すると、ヴァルクがゆっくりと振り返った。
 その表情は不満げだ。

「ね、寝ましょうか?」

 やんわりと笑顔で訊いてみると、ヴァルクは無言でイレーナを抱き上げた。

「ちょっ、と……あの」
「お前は何もわかっていない」
「何がですか?」
「俺がなぜ不機嫌なのか、よく考えてみろ」
「はあ? いや、さっぱりわかりませんが」

 そのままベッドに降ろされるとヴァルクは圧し掛かってきた。
 彼はイレーナの手を握ってじっと見下ろしている。
 その姿にイレーナはハッと気づいた。

「わかりました! 私と会えなくて(夜伽ができなくて)不満だったのですね!」

 ヴァルクは頬を赤らめて「ちっ……」と舌打ちした。

(なあんだ。欲求不満だったのね。もう、しょーがない人!)


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