人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「アンジェさま、あの妃とお茶会だなんて、わざわざそんなことしなくてもよろしいですのに」
アンジェがイレーナとの茶会を決めると侍女は不服そうな顔をした。
「あんな妃に気を使うことないですよ。目立ちたがりで立場をわきまえない本当にいやらしい人間だわ。どうせ陛下に色目を使って迫っているに決まっています」
ぶつぶつと文句を言う侍女の言葉をアンジェは無視した。
そして、鏡台の棚にひっそりと隠しておいた赤紫の透明容器をじっと見つめる。
「一度痛い目に遭えばいいんだわ。二度と陛下にお近づきになれないように」
愚痴の止まらない侍女に、アンジェは冷静に話しかける。
「ねえ、あなた」
「は、はい。何でしょう?」
「わたくしの命令を必ず聞くと約束できるかしら?」
侍女はぱあっと明るい表情になる。
「もちろんでございます。私はアンジェさまの命令は絶対だと思っておりますから!」
アンジェはにっこりと穏やかな笑みを浮かべる。
「そう? よかったわ。必ず私の命令に従ってね」
「はい。承知いたしました!」
そして、アンジェはイレーナとの茶会を開く。
ちょうど、皇帝が遠方へ視察へ行く時期を狙って。