人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
安心しきったのもあってか、イレーナはアンジェに訊かれたことに次々答える。
「民のための学校の思いつきは驚いたわ。民のために高級布団を格安で生産するアイデアもね。どうやったらそんな考えが思い浮かぶのかしらね」
「実は私は公女と言っても庶民の方々と触れ合う機会が多かったので、民の目線で物事を考えてしまう癖があるのです」
「そう。あなたは特殊な育ち方をしたのね」
「おかげで妃としての嗜みが欠けていると侍女に叱られてばかりです。アンジェさまを見習いたいです」
アンジェはお茶を飲んでカップを静かに置く。
そして笑顔を崩さないまま、イレーナに言った。
「あなた、身分不相応という言葉をご存じかしら?」
イレーナはどきりとした。
アンジェは笑顔だが、そのセリフからは身のほどを知れと言っているようなものだ。
「はい、存じておりますし、理解しております」
「そう。でしたら、少し控えめにすべきでしょうね。陛下に何を訊ねられても、すべてに正直に答えるのは側妃としての立場を超えていると自覚すべきだわ。それがわかっていれば、多少口を閉じることもできるはずよ」
つまり、バカを演じろと言われているのだろう。
イレーナはぐっと唇を引き結んだ。