人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 これは圧力をかけられているのだ。
 アンジェは表情も口調も穏やかだが、その内側から苛立ちが滲み出て、それがひしひしと伝わってくる。

 つまり、側妃の分際で正妃の真似事はやめろと警告を受けているのである。

 イレーナに側妃の自覚があれば、たとえ能力があったとしても、正妃より秀でてはいけない。
 正妃を立てなければならないのだ。
 それをイレーナは忘れて、その場でバカ正直に陛下の問いに答え、彼の力になり、政務に口を挟みすぎている。

 自分でも目立っていることを危惧していたが、やはりアンジェは相当怒りが溜まっていたのだろう。

「出しゃばった真似をして申しわけございません。アンジェさまのご気分を損ねてしまったことは謝ります」

 イレーナはまず、アンジェに対する謝罪をした。
 しかし、そのあとすぐに自分に意見を続けた。

「ですが、私にも正義というものがございます。陛下のためになり、ひいては国のためになることであれば、私は陛下に助言をいたしたく存じます。生意気なことを申しておりますことは重々承知しております」

 イレーナは深く頭を下げたまま、アンジェに訴える。

「しかし、私は民が困っている姿を見て放っておくことなどできません。これだけは譲れないのです」

 アンジェは突然立ち上がり、イレーナのそばへ寄ると、おもむろにプディングを手に取る。
 そして、それをイレーナの胸もとにぶちまけた。


< 123 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop