人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 イレーナは混乱して頭が上手くまわらなくなっている。
 ただわかるのは、この場を収めるために自分が口をつぐむことだけ。
 イレーナが黙り込んでしまったので、アンジェはふっと笑みを浮かべた。
 その目はまるで汚いものでも見ているかのように蔑んでいる。

「妃がふたりいる意味をご存じ?」
「はい。アンジェさまは陛下の一番の妃であり、陛下とともに政務や外交をおこなう立場のお方です。そして、私は跡継ぎのためだけの妃に過ぎません」

 アンジェの求めている答えを言ったつもりだったが、彼女はさらに険しい表情になった。

「勘違いしないでちょうだい。あなたは子を産むだけよ。子が皇太子になったとしても、あなたはただの乳母に過ぎないわ。なぜなら、わたくしが母になるのですからね」

 わかっている。
 よその国では子を産んだ妃とその一族が権力を握ることになるので、血生臭い後継者争いが勃発する。
 お互いにあらゆる汚い手を使って相手の子を暗殺するのだ。
 この国では妃はおろか侍女が仮に皇帝の子を産んだとしても、その子どもは正妃の子となる。
 アンジェは絶対的な皇帝の妻であり、その立場は決して揺るがないのである。


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