人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
イレーナはいわば、アンジェが子を産めないときの身代わりに過ぎない。
側妃の立場はあまりにも低い。
(アンジェさまの言うとおり、私は少し勘違いしていたんだわ)
あまりにもヴァルクが優しく接してくれるから、彼と過ごす時間が楽しくて幸せだったから、イレーナはヴァルクと本物の夫婦だと心のどこかで期待してしまっていた。
すべては幻だ。
アンジェが目を覚まさせてくれた。
「今はわたくしとあなたで真逆の立場になっていることは理解できるわよね?」
「……わかります。ですから、今後は発言に気をつけたいと思います」
愚かなことを言ったとイレーナは反省した。
正妃のような発言は今後、決して口にしてはいけない。
(やだ……泣きそう)
イレーナは町で過ごしたヴァルクとの時間を思い出し、感情が敏感になっている。
しかし、ここで泣いてしまってはアンジェを悪者にしてしまう。
アンジェはこの国における正しい発言をしただけなのだから。
「ありがとうございます、アンジェさま。自惚れていた私に助言をしてくださって」
イレーナが笑顔で礼を言うと、アンジェは驚いた表情で固まった。