人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「わたくしは産みの親を知りません。父でさえ、あんな人です。誰かを愛したり、愛されたりする感情は、わたくしには理解できないのです」
イレーナは複雑な表情でただアンジェの話に耳を傾ける。
両親に大切に育てられたイレーナには、到底アンジェの心を理解することなどできないだろう。
どんな慰めの言葉もアンジェにとっては嫌味でしかない。
黙っているしかなかった。
「わたくしには幼い頃から慕っている方がいたの。だけど、これが相手に対する愛なのかわからなかったわ。遠くでその人を見ているだけで幸せだった」
アンジェが昔好きだった人の話だろうと、イレーナは思った。
「やがて、父はわたくしに皇帝との結婚を命じたの。正直、気が狂いそうだったわ」
ヴァルクとの結婚によって想い人を諦めなければならなかったのだろうと、イレーナは察して胸が痛くなった。
だが、次に衝撃の言葉がアンジェの口から跳び出した。
「幼い頃から慕っていた男のもとへ、政略結婚で嫁げというのよ。わたくしの小さな想いは政治利用されることになったのよ」
イレーナは驚いて目を見開いた。
(えっ!? アンジェさまの想い人は陛下だったの?)