人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
しかし、アンジェは騎士団長と関係を持っている。
一体どういうことなのだろうか。
混乱するイレーナをよそに、アンジェは額に手を当てて俯き加減で話を続ける。
「父は、今の皇帝をよく思っていらっしゃらないの……父のもとには、先代皇帝に忠誠を誓っていた王侯貴族たちがいるわ……すでに、あちこちから傭兵も、集まって……」
アンジェの顔色が悪いことに、イレーナは気づく。
彼女の話を途中で遮ってしまうことになるが、今はそれどころではなかった。
「アンジェさま? どうかしましたか? 顔色が」
「あなたは、何も知らない……この城で起こっていることを……」
アンジェが顔を上げると、そこには顔面蒼白で強張った表情があった。
「アンジェさま! すぐ医者に」
「かまわないわ……もう、間に合わな……」
アンジェはイレーナにすがりつくようにして、そのまま床に崩れ落ちた。
「アンジェさま! 誰か! 誰か来て!!」
イレーナが叫ぶと、部屋の外で待機していた侍女たちがすぐに駆けつけた。