人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

「イレーナさま、どうかなさいまし……」
「アンジェさまあっ!!」

 アンジェの侍女がリアを突き飛ばして駆け寄ってきた。
 アンジェの顔色は暗い紫色に変化している。

「一体、どういうことですか? これは! イレーナ妃、あなたアンジェさまに何を?」
「わ、私は何も……」

 イレーナとて何が起こったのかさっぱりわからないのである。
 普通に茶を飲んで会話をしていたら、アンジェが急に倒れたのだから。
 そのあいだ、まったく不審な点はなかった。
 リアが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれるものの、イレーナは気が動転している。
 それほど経たないうちに、背後から男の声がした。

「アンジェさま」

 駆けつけたのは騎士団長だった。
 彼は侍女たちに「退()け」と命令し、アンジェを抱きかかえる。
 そして、彼は険しい顔つきで言った。

「毒だ」

 騎士団長の言葉に周囲は驚愕し、悲鳴じみた声が上がった。
 イレーナは混乱し、手が震えている。

(嘘でしょう? このお茶の中に毒が混ざっていたの?)


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