人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています




「アンジェが毒を飲んだだと!?」

 侯爵のもとに侍従が報告に訪れた。

「はい。イレーナ妃との茶会で、アンジェさまが倒れられ、吐血されました。今は意識不明の状態でお命にかかわるようでございます」
「くそっ! なぜアンジェが飲むのだ? 計画は失敗か!」
「はっ……そのようで」

 ふたりのやりとりを聞いていた黒ローブの男が、にやりと笑みを浮かべながら侯爵に話しかけた。

「そうでもありませんよ。やり方は違いますが、これでイレーナ妃を犯人に仕立て上げ、投獄することができます」
「あの妃がやったという証拠はどうする?」

 侯爵の問いに侍従が渋々返答する。

「実は、茶会の場には妃さまたちおふたりだけで、他の者は一切その場にいなかったようなのです」
「ほう、なるほど。アンジェ、よくやった。自身を犠牲にして相手に重罪を負わせるとはな」

 王族を、しかも皇帝の正妃を毒殺しようとした罪は、この国では死刑に値する。
 このままイレーナを犯人にすれば、確実に処罰が下されるだろう。

「さすが、わしの娘だ」

 侯爵はにやりと笑った。


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