人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「イレーナ妃を投獄し、拷問しましょう。そして、皇帝の悪行を吐かせるのです」
黒ローブの男はまるで感極まるように目を輝かせながら語る。
「皇帝はあの妃に惚れ込んでいる。それは周知の事実。であれば、罪人である妃に肩入れした皇帝は帝国議会で裁かれることとなるでしょう」
なるほど、と侯爵は頷きながら答える。
「皇帝の権力が弱まった頃合いに、わしの率いる傭兵団が皇城を襲うのだな」
侯爵を筆頭にする貴族派たちが結束し、まず議会で皇帝を詰問し、味方を失ったところに、今まで地道に集めて強大な兵力となった傭兵団を使って反旗をひるがえす。
つまりクーデターである。
「そして、新たな皇帝となるのはあなたさまです」
「わしが皇帝だと? このわしが? ついに?」
侯爵はにやけながら歓喜のあまり震えている。
だが、黒ローブの男はその様子を見て、ひそかに胸中で呟いた。
(愚かな男だ。皇帝になるのはお前じゃない、この私だ)
クーデターが成功したら、男は侯爵を殺すつもりだった。