人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
地下牢に閉じ込められて数時間が経った。
イレーナは冷たい床に背中を丸めて横になっている。
何度も鞭で打たれながら、白状しろと脅された。
しかし、やっていないものはやっていない。
イレーナは飲み物も与えられず、その夜を硬い床の上で過ごすことになった。
(い、痛い……でも、大丈夫。まだ、生きてる……!)
幸い打たれたのは背中が多く、顔は死守した。
ヒリヒリと焼きつくような痛みが走るも、歯を食いしばって自分を鼓舞する。
(だ、大丈夫……だって、お母さまが言っていたもの。この世でもっとも痛いのは出産だって……だから、これくらい平気よ)
しかし、背中の傷は一生残るだろう。
もうヴァルクに肌をさらすことはできない。
(ああ……わたし、陛下が戻られるまで、生きていられるかしら……)
目を閉じると、アンジェの姿が脳裏によぎった。
そういえば、アンジェは無事なのだろうか。
侯爵は一度もアンジェの身を気遣うような素振りを見せなかった。
娘を心配するよりも、イレーナを犯人にしたくてたまらないらしい。
侯爵の口ぶりから、何となくイレーナは察した。
(この人は皇帝を廃位させるつもりなんだわ)