人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 地下牢に閉じ込められて数時間が経った。
 イレーナは冷たい床に背中を丸めて横になっている。
 何度も鞭で打たれながら、白状しろと脅された。
 しかし、やっていないものはやっていない。
 イレーナは飲み物も与えられず、その夜を硬い床の上で過ごすことになった。

(い、痛い……でも、大丈夫。まだ、生きてる……!)
 
 幸い打たれたのは背中が多く、顔は死守した。
 ヒリヒリと焼きつくような痛みが走るも、歯を食いしばって自分を鼓舞する。

(だ、大丈夫……だって、お母さまが言っていたもの。この世でもっとも痛いのは出産だって……だから、これくらい平気よ)

 しかし、背中の傷は一生残るだろう。
 もうヴァルクに肌をさらすことはできない。

(ああ……わたし、陛下が戻られるまで、生きていられるかしら……)

 目を閉じると、アンジェの姿が脳裏によぎった。
 そういえば、アンジェは無事なのだろうか。

 侯爵は一度もアンジェの身を気遣うような素振りを見せなかった。
 娘を心配するよりも、イレーナを犯人にしたくてたまらないらしい。

 侯爵の口ぶりから、何となくイレーナは察した。

(この人は皇帝を廃位させるつもりなんだわ)



< 137 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop