人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「イレーナ妃よ、口を割る気になったか?」
「何度問われても私はアンジェさまに毒を盛ってなどいないし、陛下を唆したりしていません」
「そうか。ふむ、まだ足りないか。おい、もっと痛めつけてやれ」
イレーナだけなく、まわりの男たちも狼狽えている。
「しかし、これ以上やると死んでしまいます」
「そのときは、まあ、残念だったということだな」
侯爵がにやりと笑うと、イレーナはぞくりと背筋が震えた。
(このままだと殺されてしまう)
だが、イレーナはすでに動けない。
痛みの感覚は麻痺している。
ただ、意識が朦朧としているのだ。
(もうだめかもしれない)
そう思った次の瞬間。
「アンジェさまの意識が戻りましたけど」
抑揚のない声が聞こえた。
イレーナがうっすらと目を開けると、視界に騎士団長の姿があった。
侯爵は「いいところだったのに」と舌打ちした。
「アンジェは無事か?」
「はい」
「で、お前のところの準備は整ったのか?」
「すでに待機しております」
侯爵はへへへっといやらしい笑みを洩らす。
「イレーナ妃は拷問中に死亡。戻った皇帝は我々に議会で詰問される前に傭兵団に攻め込まれ、一気に城は陥落。皇帝もまさか右腕と信じていたお前に裏切られるとは思ってもいなかっただろう」
薄れゆく意識の中で、イレーナは彼らの会話を聞いて悟った。
(まずいわ。このままだと内戦になってしまう)