人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

「女が(いくさ)のことを語るとはな」

 ヴァルクはふっと笑いを洩らした。
 イレーナは真剣な表情で話す。

「私の中では情勢や商売の話をするのに男も女も関係ありません。私の母は、女は着飾ってお茶でも飲んでいればいいという考えを持つことを嫌っておりましたので」

 ヴァルクはぎゅっとイレーナを抱きしめる。
 イレーナは胸に抱かれてどきりとした。

「あ、あの……生意気なことを申しまして」
「いや、だからこそ俺は自ら願ってお前を妻にしたんだ」
「えっ……」

 ヴァルクの腕にぎゅっと力が入る。
 そのせいでイレーナは背中の傷にずきりと痛みが走った。

「い、いたたっ……」
「ああ、悪い……くそっ、服が破れるほど鞭打ちしやがって」

 ヴァルクがふたたび怒りの表情になるので、イレーナは彼を安心させるために笑顔を向けた。

「大丈夫です。こんなのは子を産む痛さに比べたら、かすり傷のようですわ」
「産んだことがあるのか?」
「ございません! 例えです」

 ヴァルクは怪訝な表情をしていたが、わずかに口調が柔らかくなった。

「背中の傷は治癒師(ヒーラー)が癒してくれるだろう。大丈夫だ。傷が残らないようにしてやる」
「そうなのですか。それはありがたいです」

 イレーナはそっと目を閉じると、ふたたび意識が薄れていった。
 ヴァルクの懐があまりにもあたたかく、安心してしまったから。

 その後――。



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