人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「お前は確か薬草師であり錬金術師ではないか? 怪しげな薬を持っていたな。すべて回収させてもらった」
ヴァルクが大きな袋を広げると、赤紫や青緑や黄色など極彩色の薬の容器が現れた。
「な、なぜ……」
狼狽えながら言葉を濁す男に向かってヴァルクが笑いながら告げる。
「なぜ処分したはずの薬がここにあるのか、と言いたいのか? それはアンジェの侍女がすべて持っていた」
「あの女……!」
男はアンジェがイレーナに毒を盛る勇気などないことを悟っていた。
だから、アンジェの侍女に命令していたのだ。
「お前の慕っているアンジェのため」だと言えば侍女は簡単に引き受けた。
そのあとは侍女を犯人にして口封じをするつもりだったが、すべて無駄になったようだ。
逃げ出そうとした男に剣を突きつけたのは騎士団長だ。
男は驚き、じろりと彼を睨みつける。
「裏切者め!」
「ああ、そうだ。最初から俺は裏切者だからな」
騎士団長の皮肉に対し、男は何も返すことができなかった。
結局、騎士団長は皇帝を裏切ったと見せかけて、侯爵側を裏切ったのだから。