人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
スベイリー侯爵の実娘であるアンジェは当然のことながら正妃を下ろされ、処分を下される。
一族の反逆は本来死罪だが、アンジェは正妃だったこともあり、国外追放という処分が下された。
貴族の身分を失い、平民として生きることになる。
アンジェにとっては死より苦痛な生である。
「あの子はわたくしの命令を聞かなかったのね」
アンジェは侍女が怪しげな錬金術師と接触していることに気づいていた。
きっと侯爵に利用されているのだろうと思い、彼女に自分の命令以外は聞かないようにと幾度も忠告した。
まさか彼女が茶会で両方のカップに毒を混ぜているとは思いもしなかった。
毒は少量だったのだろう。
少し眩暈がする程度だ。
しかし、アンジェはあらかじめ自分で服毒していたため、イレーナよりも多くの毒を摂取した。
自身の異変でそれに気づいたアンジェは急いでイレーナのカップの茶をぶちまけたのである。
自分で事前に服毒した理由は、イレーナを少し困らせてやるためだった。
アンジェはイレーナに嫉妬していた。
自分にはないものを彼女は多く持っている。
他人と比較するなど滑稽なことだとわかっていても、うらやましくてたまらなかった。
結局、父の命令さえ聞けなかった。
アンジェは追放されたあと、ひとりで静かに自死するつもりだ。
しかし、思わぬことが起こったのである。