人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「あなたは自由になるのです。これからは自分の意思で生きていくのです。スベイリー家から解放され、結婚も自由にできます。俺はあなたを監視するためにそばにいなければなりません。代わりに、あなたが生きていけるように一生護衛をするつもりです」
アンジェはいまだ眉をひそめたまま、わずかに首を傾げる。
「それでは、あなたの人生を犠牲にしてしまうわ」
この国にとって有能で皇帝の右腕とも言われる強さを誇る騎士団長が追放された平民の護衛などおかしな話だ。
「アンジェさまのためにこの身を捧げることができるなら本望です」
「あなたはもうわたくしの護衛ではないのです。そこまでする必要などありませんわ」
「これは俺の個人的な感情であり、陛下のご命令ではありません」
そこまで言われてようやくアンジェは気づいた。
彼は一生ともに生きようと言っているのだと。
「あなたの考え方はおかしいわ。だってわたくしは罪人の娘ですのよ」
「いいえ。アンジェさまは以前も今も、これからも、俺にとってのすべてです」
アンジェは涙ぐみながらわずかに笑みを浮かべた。
めったに人前で笑うことのない騎士団長は、彼女の前で優しく微笑んだ。
その後のふたりについて、ほとんどの人が知らない。
ただ、皇帝ヴァルクに届く報告によると、ふたりは誰にも知らせず静かに家庭を築いたようだった。