人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
15、側妃を卒業しました
「陛下! いけません、そんな……陛下にそのようなことを……」
侍女のリアは慌てふためき、イレーナの部屋は少々騒がしかった。
しかし、彼はまったく聞く耳を持たない。
「セシルアの王子は妻が風邪を引いたときにこのようにすると言っていたぞ」
「し、しかし……妃さまのお食事のお世話は私たち使用人の仕事でございます」
「俺がそうしたいと言っているんだ。これは皇帝命令だ」
「はぁ……仕方がありませんね」
リアは根負けした。
ヴァルクは嬉々としてミルク粥の器を持ち、スプーンですくってイレーナの口もとに持っていく。
「ほら、食って体力をつけるがよい」
「あの、自分で食べられますから」
「こういうときは夫の言うことを聞くものだ。ほら、あーん」
「うっ……」
イレーナは羞恥のあまり真っ赤になってヴァルクの持つスプーンを口に含んだ。
セシルア王国の王子は新妻にべた惚れで、毎日ふたりで一緒にいるらしい。
そして、このあいだ妻が風邪で倒れた際に、夫である王子が自ら妻にミルク粥を食べさせていたらしい。
ヴァルクはセシルアの王子に負けないくらいイレーナをベタベタに甘やかしたくてたまらなかった。
イレーナはそれに渋々付き合うことにしたのだ。