人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「陛下、そろそろ政務にお戻りいただかなければなりません」
侍従のテリーは困惑していた。
あれからヴァルクはイレーナに付きっきりだったから仕事が山ほど溜まっているのだ。
「くっ……誰か俺の身代わりがいないのか? そうすれば俺は四六時中ここにいられるというのに」
呆れたイレーナはヴァルクに進言することにした。
「私の世話をしてくれる者は多くいますが、陛下の代わりはおりません。ご心配なく政務にお戻りください」
それを聞いたヴァルクは悔しそうな顔をしたが、肩を落としてため息をついた。
「仕方がないな。だが、仕事を終わらせたらすぐにここへ来るぞ」
「お待ちしておりますわ」
侍従のテリーはにこにこしながらヴァルクと一緒にイレーナの部屋を出ていった。
リアは力が抜けたように深いため息をつく。
「心配しすぎなのよ。もうほとんど回復しているし、これくらいなら日常生活に戻ってもいいくらいよ」
「いいえ、いけません。陛下はイレーナさまが完全に元通りになるまでベッドで安静にと申しております。そのことについては私たちも同意見です。イレーナさまの傷は思ったより深いと医師が申しておりましたから」
リアにまでそう言われたらイレーナは返す言葉もない。