人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 イレーナの傷は治癒師も苦労するほど酷かった。
 治癒師はイレーナがショック死をしなかったことに驚いていたし、完全に治すことは不可能だと告げた。
 ヴァルクの怒りは相当なものだったが、イレーナが何とかなだめた。
 その代わりにヴァルクはイレーナにべったりになってしまった。

「こう毎日来られると、重いわ……」

 イレーナがぼそりと呟くと、リアは満面の笑みで返した。

「それほど陛下はイレーナさまのことを思っていらっしゃるのですよ」

 イレーナは困惑の表情でため息をつく。

(きっと責任を感じていらっしゃるのだわ。ご自分を責めていらしたしね)

 リアはうっとりと宙を見つめてひとり明るい声を上げる。

「ああ、私もこんなふうに(深い愛に)包まれてみたいです」

 イレーナはぼんやり窓の外へ目を向ける。

(この城に妃は私ひとり。陛下は新しい妃をお迎えになるのかしら)

 ヴァルクは何も言わないが、イレーナは新しい側妃が迎えられるだろうことを覚悟していた。

(だって、この国の皇族は一夫多妻制だもの)
 
 わかっていても、胸の奥がもやもやした。



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