人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
ドレグラン帝国は連日お祭り騒ぎだった。
新しい正妃が民にお披露目されると、歓声が上がった。
その中で、ひと際目立つ者たちがいた。
教会の孤児院の子どもたちである。
「すごいや! お姫さまだったなんて!」
「正妃さま、万歳!!」
だが、教会の司祭は複雑な表情でそっぽを向いていた。
「あいつら、騙したな! 何が皇族関係者と言えない身分の貴族だ。皇帝と妃ではないか!」
ぶつぶつ文句を言う司祭に対し、子どもたちがなだめた。
「でも先生、私たちご飯がいっぱい食べられるよ」
「もうすぐ学校にも行けるし」
「楽しみだねえ」
司祭は遠目で皇帝と妃を見つめてぼそりと言った。
「悔しいが、口先だけの奴らではなかったな」
貧しい地域には食事の配給がおこなわれ、平民のための学校の建設は進んでいる。町には図書館や公共施設、そして娯楽施設も増えている。
国境近くの村はこれまで幾度も戦場になっていたが、今は平和が訪れて、移住者も増えている。
「現皇帝が内政を重視しているのは正妃さまのお力であると耳にした」
「ほう、よそから嫁いだ方なのにめずらしいなあ」
「よほどこの国をお好きになられたのね」
イレーナの噂はじわじわと民に浸透していった。