人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
スープに具は入っていなかった。
それでも空腹を満たすには十分な量だった。
ヴァルクはそれを受けとり、スプーンですくって口に入れた。
久しぶりに口の中に広がる味に感動し、涙を流しながら夢中でスープを飲んだ。
「美味い……こんな美味いもの、食べたことない」
「そうでしょ。だってお母さまのスープは最高に美味しいのよ。みんな大好きなんだから」
「ここの人たちは毎日このスープが食べられるのか?」
「ううん、普段は芋や硬いパンを食べているの。だから、たまには美味しいものが食べたいでしょう」
「え? 芋……? 硬いパン?」
ヴァルクは周囲を見わたした。
他の者たちも嬉しそうにスープを口にしている。
その光景を見ると不思議な気持ちになった。
彼にとって食事は毎日、朝から豪勢なものが用意されている生活が当たり前で、好みではない料理は食べなかった。
好きなものをいつでも作ってもらえて、お菓子も好きな時間に好きなだけ食べられる。
しかし、民にとってそれは当たり前ではなかったのだ。
「この国は戦争ばかりしてるの。武器にお金をかけて民にまでお金がまわってこないの。民はみんなご飯が食べられずに死んでいくの」
ヴァルクはイレーナの言葉を聞きながら複雑な気持ちになった。
父は戦の話はたくさんしてくれたが、民の暮らしについてはまったく教えてくれなかった。