人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
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昔話を聞いたイレーナは仰天し、慌ててヴァルクに謝罪した。
「申しわけございません! 知らなかったとはいえ、ヴァルクさまに残飯を食べさせるなんて……しかも、そんなスープの分け方をして……」
「あのときはそれが最善の方法だったのだ。誰かのスープを与えたら、その誰かは食べられないだろう。幼子にしてはよく思いついた」
ヴァルクはけろりとして言った。
しかし、イレーナは恐縮している。
「ああ、私はとんでもないご無礼を……」
「お前は気にしすぎだ。だが、まあ無礼の償いをしてもらうのも悪くない」
「はい。何をすればよろしいでしょうか?」
不安げな顔で見つめるイレーナを見て、ヴァルクはにやりと笑った。
彼はイレーナを抱き寄せて、その顔を近くでじっと見つめた。
「ずいぶんと長くご無沙汰のようだ」
「えっ……あ、はい。怪我が治るまでは安静にとヴァルクさまが言ってくださったおかげで」
「だが俺はもう我慢できない」
「ええっ!?」
ばたんっと勢いで押し倒されてしまった。
こうなることはわかっていたが、それでもイレーナはドキドキしている。
(どうしよう。久しぶりだから緊張するわ)