人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「早く陛下にお知らせしなければ」
「北部の視察からお帰りになるのは明後日くらいだから、そのときに」
リアと使用人たちが盛り上がる中、イレーナは冷静に話した。
「私からお話するから、みんなは黙っていてくれるかしら?」
イレーナは素直に喜んではいなかった。
もちろん、子を授かったことは素晴らしいことで、当然産むことを選択するだろう。
だが、ヴァルクはどう思うだろうか。
正妃にはなったが、彼はまだ子を望むとは言っていない。
子作り計画をまだ話し合っていないのに、先に子が出来てしまった。
妊娠したから、今までのような情事を行うことは難しいだろう。
命が優先だ。
そうなると、ヴァルクは欲求を晴らすことができない。
側妃として嫁いできたときの自分の役割がおこなえなくなってしまう。
「ああ、そうか。別に側妃を置けばいいのだわ」
我ながら名案だと思ったが、すぐに嫌悪感を抱いた。
愛する夫が、別の女を抱く。
皇帝なら当たり前のことだし、以前はそれほど気にならなかったのに、今のイレーナはそれが許せなかった。
そして、許せない自分にも嫌気がさした。
皇帝の妻のくせに、まだ見ぬ側妃に嫉妬をするなんて。