人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 ヴァルクは正装ではなく、平民のようなラフな格好だった。
 しんと静まり返る中、ひとりの子どもがてくてく歩いてヴァルクに近づいて言った。

「皇帝陛下、このたびはおめでとうございます」

 事情を知っているリアたち関係者は『ぎゃあああっ』と声にならない悲鳴を上げた。
 ヴァルクは一瞬考えるそぶりを見せたが、すぐに子どもの頭を撫でた。

(もう隠せないわ。すぐにでも報告しなければ)

 心の準備はしておいたが、皇城に帰って報告するつもりだったので、イレーナはヴァルクにこっそり声をかけて別室へと向かった。
 そこで神妙な面持ちのイレーナに、ヴァルクは怪訝な表情をした。

「どうした? やはり具合が悪いのか?」
「それは……ええ、そうなのですが」
「無理をせず休養を取ればよかったのだ。連日の疲れが出ているのだろう? 医師から聞いたぞ」
「はい、あのう……そのことですが」

 イレーナの様子を見たヴァルクは何かを感じ取ったようだった。



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