人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
皇帝ヴァルクに初めて謁見し、その風格にイレーナは圧倒された。
長身でかつ鍛えられた身体、鋭い目つき、冷たい表情。
そして、臣下に対する冷たい口調。
噂どおりの男だったのである。
逆らえばすぐさま首が飛ぶことだろう。
周囲の人間も怯えているようだ。
イレーナは緊張ぎみに皇帝の顔を見つめる。
正直もう逃げ出したいくらい恐ろしい。
「公女イレーナ。お前は本日から俺の2番目の妻だ。自覚を持って行動せよ」
ずっしりと胸に響く低い声。
答えを間違えれば即処刑されそうな雰囲気だ。
しかし大丈夫。
イレーナはこの日のために何度も練習をしておいた。
「皇帝陛下のお心のままに」
イレーナは挨拶をおこない、深く頭を下げて言った。
つまり、すべてヴァルクの命令どおりに動くという意味である。
イレーナは自分が人質であることを自覚している。
だから、ヴァルクに何をされても背くことはできない。