人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
(落ち着いて。大丈夫。これはただの子作りよ。そう、子作り。父も母も民たちも動物もみーんなやっている当たり前のことだから平気よ!)
しかし、予備知識はない。
「あ、あのう……子作りをいたすのですよね?」
勇気を出して口にしてみたが、ヴァルクは眉をひそめた。
イレーナは焦る。
(ち、違うのかしら?)
「ある意味では合っている」
「え?」
「だが、それはお前次第」
「それはどういう……」
イレーナの言葉は途中で途切れた。
キスをされたからだ。
まったくの他人と唇を重ねる感触は異質なもので、最初はびっくりしたけれど。
(わ、悪くないわ……)
イレーナはドキドキしていた。
絵本で読んだ王子さまとお姫さまのキスはとても軽いものだったが、現実はそうではなかった。
しかし、あまりに長かった。
息苦しくなって顔を背けるとヴァルクがそっと訊ねた。
「初めてか?」
耳もとでひっそりと言われると変な気持ちになってしまう。
イレーナは破裂しそうな心臓と戦いながら何とか答える。
「も、もちろんです。殿方と触れ合ったことなどございません」
「そうか。優しくしてやらねばならんが、そんな余裕もなさそうだ」
「え?」
今度はぎゅっと手を握られてキスをされた。