人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「虫に刺されちゃったみたい。お薬はあるかしら?」
イレーナが訊ねると、侍女のリアはにんまりと笑って答えた。
「イレーナさま、それは虫刺されではございません」
「え? でも、昨日はなかったわ」
「そうでしょう。それは愛の証でございますから」
「へ? 愛? 何の?」
「またご冗談を。知っておられますでしょう?」
笑っているのはリアだけではなかった。
使用人たちもにこにこしている。
「なるほど。陛下はよほどイレーナさまをお気に召したようでございますね。陛下からお薬を預かっておりますよ」
リアの言葉の意味がよくわからなかったが、とりあえず薬があると聞いてありがたく思った。
「なあんだ。薬があるんじゃない。さっそく塗ってちょうだい」
「いいえ。その薬ではございません」
イレーナは眉をひそめて「は?」と疑問の声を発した。
「これは飲み薬でございます。このあとお食事のときにお出ししますね」
「え? うん……わかったわ」
なぜ、虫刺されなのに飲み薬なのか、イレーナには理解できなかった。
そして、使用人たちが食事を運んできて、テーブルの上にはご馳走が並んだ。