人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

「おもてを上げて顔をよく見せてみろ」

 イレーナは緊張ぎみに顔を上げる。
 ヴァルクの紅い瞳と視線が交わり、どきりと胸が高鳴る。
 手のひらにじわりと汗が滲む。
 イレーナはなんとか震えを止めて、いいと言われるまでヴァルクから目をそらさなかった。
 けれど、ずっと威嚇するような目で見つめられてはそろそろ精神(メンタル)が限界だ。

「ふむ。なかなかいい(ツラ)をしている」

 ヴァルクはふっと笑みを浮かべた。
 それにはイレーナも周囲の家臣たちも驚愕した。

「陛下が笑っていらっしゃる」
「この妃の顔が気に入られたのではないか?」
「この様子ならすぐに跡継ぎがお生まれになるだろう」

 イレーナは複雑な心境になった。
 皇帝の妻になるのだから、当たり前だが覚悟はしている。
 しかし、未知のことなので緊張もする。

「イレーナ、今夜お前の寝屋へ行く」



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