人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 皇帝が避妊しろと言うのだから逆らうわけにはいかない。
 イレーナは強烈な異臭を放つ青紫の液体を息を止めてぐいっと飲んだ。

「うっ……ごほっ……まっず」

 ものすごく不味かった。
 吐き出しそうになり、とっさに口を押さえるも、リアは助けてくれるどころか真剣な表情で声を荒らげる。

「頑張ってください、イレーナさま! これも陛下との夜のお楽しみのためでございます」
「ちょっ……それ本気で言ってる?」

 跡継ぎをもうけなければならないのに避妊する皇帝。
 普通に考えたら変な話だ。

「最初のうちは副作用で吐き気を催すこともあるでしょうが、そのうち慣れますので耐えてくださいませ」
「耐え……いや、これ無理じゃない? 本当に慣れるの?」
「はい!」

 なんとか飲み干したイレーナはすぐにパンをかじった。
 口の中が泥臭さと香ばしいパンの味で微妙な気分になるが、仕方ない。

(ていうか、どうして私が飲まなきゃいけないのかしら? あちら側が飲む薬はないのかしら?)

 あちらの都合なのだから、すべてあちらが背負うべきことなのに。
 とは思うが、こういうことは女性側がどうにかするしかないのだろう。

(子を授かるのも産むのも育てるのも女だしね)

 浅はかな知識を絞り出しながらイレーナは唸る。
 この薬を毎日服用しなければならないとは、一体何の拷問か。

(はぁ……夫婦生活、前途多難!)




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