人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
側妃であるイレーナの仕事はほぼない。
本来ならば皇帝の子を産むという重大な仕事があるはずだが、ただいま避妊中。
「退屈だわ」
毎夜皇帝の相手をしては疲れて昼過ぎまで寝てしまうという日々が続いていたものの、それもひと月が経てばすっかり慣れた。
ほとんど部屋にこもりきりの暮らしはやはり、退屈で仕方ない。
しかし勝手に歩きまわるなと言われているし、世話をしてくれる侍女が常にそばにいる。
まるで監視されているようだ。
「イレーナさま、本日はお庭を散歩されますか?」
侍女のリアは一昨日と同じことを言う。つまり昨日は散歩をしなかったのだ。
毎日これの繰り返しである。
「それも飽きたのよね……針仕事とか、そういうのないかしら?」
「とんでもないことです! 妃さまにそのようなことをさせたら私たちが陛下に殺されてしまいます」
「そうよね……」
イレーナは落胆のため息をもらす。
公国にいた頃は貧しかったのもあって、自分で裁縫をすることもあったし、キッチンでパンを焼いたりすることもあった。
こっそり城を抜け出して平民の店で仕事をしたこともある。
ここにいると何もしなくていい。だが、何もしないのがこれほど苦痛だとは思わなかった。
「本でも読みたいわ。この城には図書館くらいあるでしょう?」
「ございますけど、陛下のお許しを得なければなりません」
イレーナとて、何度もお願いしようとした。
しかし初夜以降、ろくに話もさせてくれないのである。