人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 よく考えたら自分は人質同然なのだ。
 毎夜、皇帝と夜をともにしていても、決して愛されているわけではない。
 あれは遊びなのだから。

「図書館に行きたい?」

 その夜、思いきってヴァルクに願い出たら、予想どおり怪訝な顔をされた。

「はい。私はずっと部屋にいるばかりで息が詰まってしまいます」
「庭でも散策していろ」
「それも飽きてしまいます」
「わがままだな」
「うっ……」

 そう言われたら反論できなくなる。
 妃という立場を与えられてはいるが、ただの人質。皇帝の道具にすぎない。
 イレーナががっくりして肩を落とすと、ヴァルクがぐいっと抱き寄せた。
 そして彼はイレーナの髪を撫でながらにやりと笑う。

「そんなに本が読みたいのか?」
「はい。大好きなのです」
「そうか、わかった。では、護衛を3人つける。侍女も連れていけ」
「ええっ? ここはお城ですよね? そんなに警護は必要ですか?」
「当たり前だ。お前を監視するために必要だろう」
「ああ……そう、ですか」

 皇帝の目から一瞬たりとも逃れらないということだ。
 それでも読書中に邪魔されることはないだろう。
 部屋にこもるよりはずっとマシだ。

「逃げるなよ」
「逃げたところで私の生きられる場所などありません」
「ああ、そうだな。お前は俺のそばにいないと生きていけない」

 ヴァルクはイレーナの髪をさらさらと撫でながらキスをする。
 まるで愛されているような行為だ。

(勘違いしちゃだめよ……!)





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