人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
侯爵は口髭をわざわざつつきながら、まるで観察するようにイレーナを見やる。
「ふむ。皇帝陛下はこんな貧相な娘を娶るなど、どうかしているな」
「し、失礼でございますよ。侯爵!」
侯爵に言い返したのはリアだった。
2番目とはいえ妃なのだから、侯爵より身分は高いはずだ。
それでも彼は娘が正式な皇帝の妻であることに自信を持っているのだろう。
だが、イレーナはたいして動じることはなかった。
人質の身であり側妃である立場。周囲からこのような目で見られることはこの国に来る前から承知している。
反論する気など毛頭ないが、これだけは助言しておいてやりたい。
「スベイリー侯爵さま。ただいまの発言は陛下を侮辱することになります。私のことはどうぞお好きなだけ批判なさってください。けれど、陛下が私を選ばれたのですから、そのあたりは否定なさらないほうが身のためでございます」
冷静にスラスラとそう述べるイレーナに、侯爵は表情を引きつらせた。
妃をけん制したかったのだろうが、迂闊にもほどがある。
「貧乏公国の娘が……!」
侯爵はイレーナをじろりと睨むとふんっと鼻を鳴らしてズカズカと立ち去った。