人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
複雑な気持ちを抱きながら、目的の場所に向かう。その途中、リアは侯爵に対する文句ばかり口にした。
「ほんっと偉そうにして最悪です。だいたい、食事の量も半端ないって有名ですよ。陛下と同じ量を食べるみたいですよ。陛下は剣の訓練をなさっているのですべて筋肉になられますけど、侯爵の場合すべて脂肪です。あのお腹を見ました? ぶくぶく太って風船みたいだわ」
「風船……?」
イレーナが目をぱちくりさせていると、リアは人差し指を立てて言い放った。
「ほら、お祭りのときに膨らませて遊ぶあれですよ。膨らませると飛んでいくんです」
「ええ、知っているわ」
「で、針で刺すとパーンって弾けちゃうんです。ああ、侯爵のお腹をパーンってしてみたーい」
イレーナの背後で「ぶふっ」と声がして、ふたりが振り返る。
すると、ひとりの騎士が笑いを堪えていた。
そして、他の騎士たちも真顔だが、耐えているようだ。
イレーナは真顔で彼らを見つめて、ふたたびリアに向き直る。
「リアはお笑いの才能があるわね」
「ほんとですかー。芸人になろうかしら。町でおかしな格好しておしゃべりする人たちのことですよ」
「へえ、大道芸とは違うのね」
そうこうしているあいだに目的の場所に辿り着いた。