人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「これだけあれば退屈しないわね」
イレーナが本棚に目を走らせていると、リアが遠くから呼びかけてきた。
「イレーナさま、恋愛小説を読みませんか?」
「あー、うん。ごめん。ぜんっぜん興味ないの」
「え? ご冗談でしょう? 令嬢のあいだですっごく流行っているんですよ。特にこの悲恋モノが」
「へえ……」
リアが1冊の本を胸に抱いてうっとりした表情で宙を見つめる。おそらく本の内容を想像しているのだろう。
イレーナは苦笑しながら歴史書の並ぶ棚へと足を運んだ。
この国の歴史が知りたいからだ。建国神話などあればなおよい。
あとは、やはり商売の本でもあれば最高だ。
イレーナが何冊か本を手に取っていると、一番奥の扉からぼそぼそと人の声がした。
そこは別の部屋につながっているようだ。
もしかしたら、その部屋にも蔵書がたくさん置かれてあるのかもしれない。
イレーナがわくわくしながら扉を開けようとすると、中から男女のあらぬ声が聞こえた。
「えっ!?」
イレーナはドアノブに手をかけたまま固まった。
(これは、もしかして……?)